不動産投資の記事は、入口の話ばかりです。融資の通し方、利回りの計算、エリアの選び方。書店にもインターネットにも、情報は溢れています。
しかし、その先はどうでしょうか。買った物件を、最後にどうするのか。この問いに答えを持っている方は、決して多くありません。
結論からお伝えします。出口は「いつ売るか」ではなく「誰に売れるか」で決まります。そして、それは土地を買う時点でほぼ決まっています。
意外に思われたかもしれません。しかし理由を知れば、納得いただけるはずです。この記事では、新築アパートの出口戦略を、買主の融資・残債・税金・減価償却の4つの視点から整理します。
なぜ今、出口の話が必要なのか
近年、不動産投資を取り巻く環境は変化しています。金利は上昇局面にあり、建築費も高い水準が続いています。
金利上昇が収益物件の価格に影響する仕組みを、簡単に整理します。
収益物件の価格は、家賃収入から経費を引いた収益をもとに算出されます。この際に使われるのがキャップレート(還元利回り)です。ごく簡単に言えば、投資家が求める利回りの水準です。
金利が上がると、投資家が求める利回りも上がります。つまりキャップレートが上昇します。すると、同じ家賃収入でも物件価格は下がるという関係になります。
これは、保有している物件の売却価格に直接影響します。「買ったときより高く売れる」という前提が、常に成り立つわけではありません。
なお、実際の金利動向や市況は変動します。最新情報は日本銀行および各金融機関の公表情報をご確認ください。
出口を決める最大の要因は「買主の融資」です
ここが本題です。
あなたが物件を売るとき、買主のほとんどは融資を使います。現金で一棟アパートを買える方は、ごく少数です。
つまり、買主に融資が付くかどうかが、売れるかどうかを決めます。
木造アパートの法定耐用年数は22年です
ここで押さえるべき数字があります。木造アパートの法定耐用年数(税務上、建物の価値を計算するために定められた年数)は22年です。
これは「22年で住めなくなる」という意味ではありません。あくまで帳簿上の数字です。しかし、金融機関の融資判断に強く影響します。
多くの金融機関は、融資期間の上限を「法定耐用年数 − 経過年数」で見ます。この考え方を、具体例で確認します。
| 売却時の築年数 | 残存耐用年数 | 買主が引ける融資期間の目安 |
|---|---|---|
| 築5年 | 17年 | 17年程度 |
| 築10年 | 12年 | 12年程度 |
| 築15年 | 7年 | 7年程度 |
| 築22年超 | 0年 | 融資が付きにくい |
築年数が進むほど、買主の融資期間は短くなります。融資期間が短くなれば、毎月の返済額は増えます。返済額が増えれば、買主の手元に残るお金は減ります。
結果として何が起きるか。買える人が減ります。
数字で見ると、影響の大きさが分かります
仮に、買主が5,000万円を金利2%で借りるとします。融資期間の違いで、年間の返済額は次のように変わります。
| 融資期間 | 年間返済額の目安 |
|---|---|
| 30年 | 約222万円 |
| 20年 | 約304万円 |
| 15年 | 約386万円 |
| 12年 | 約470万円 |
融資期間が30年から12年に短くなると、年間返済額は2倍以上になります。家賃収入が同じなら、手元に残るお金はその分減ります。
つまり買主は、同じ価格では買えなくなります。買主の融資期間が短いほど、売却価格を下げなければ話がまとまりません。
※上記は元利均等返済を前提とした概算です。実際の返済額は金融機関・商品・条件によって異なります。
耐用年数を超えると、買主は現金購入者に限られます
法定耐用年数を過ぎた木造アパートに対して、多くの金融機関は建物の資産価値を認めません。
すると、買主は現金で購入できる方に限定されます。母数が一気に減るため、売却までに時間がかかります。価格も、こちらの希望どおりにはなりません。
これが、新築アパートの出口を考えるうえで最も重要な構造です。
建物の価値はゼロに向かう。残るのは土地です
ここまでの話は、少し悲観的に聞こえたかもしれません。しかし、続きがあります。
建物の帳簿上の価値は、時間とともにゼロへ向かいます。これは避けられません。では、22年後に何も残らないのかというと、そうではありません。
土地が残ります。
建物の評価がゼロでも、土地に価値があれば話は変わります。買主は土地を担保として融資を検討できます。あるいは、土地としての価格で売却できます。
ここに、出口戦略の答えがあります。
利回りは建物がつくります。出口は土地がつくります。
新築時の利回りは、建築費と家賃で決まります。しかし20年後の出口は、その土地に価値が残っているかどうかで決まります。
だからこそ、土地を選ぶ段階で出口が決まっているのです。
土地から新築で建てる意味
この構造を理解すると、土地から新築アパートを建てる意味が見えてきます。
中古の一棟物件を買う場合、土地と建物はセットです。選べません。すでに建っている建物の分だけ、出口までの時間は短くなっています。
一方、土地から新築で建てる場合、土地を自分で選べます。しかも、耐用年数のカウントはゼロから始まります。出口までの時間を最も長く確保できる方法です。
土地選定の考え方については、大牟田市は新築アパート投資の候補になる?福岡で土地から一棟投資を考えるエリア選び|LEGENDE実例もあわせてご覧ください。
売却タイミングを左右する3つの数字
「では、いつ売るのがよいのか」という疑問が残ります。判断材料となる3つの数字を整理します。
1. 残債と売却価格の関係
最も基本的な確認事項です。売却価格がローン残債を下回ると、差額を自己資金で埋めなければ売却できません。
新築アパートの場合、初期は残債の減りが緩やかです。元利均等返済(毎月の返済額が一定になる返済方式)では、初期の返済は利息の割合が大きいためです。
売却を考えるなら、まず残債表を確認してください。「今売ったら、いくら手元に残るのか」。この計算をしていない方が、実際にいらっしゃいます。
2. 譲渡所得税の5年ルール
売却益には税金がかかります。ここには明確な区切りがあります。
| 区分 | 所有期間 | 税率 |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315% |
税率が約2倍違います。同じ利益でも、売る時期によって手残りが大きく変わります。
さらに注意点があります。この所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定されます。実際の保有年数ではありません。
たとえば2022年6月に取得した物件を、2027年8月に売却する場合を考えます。実際の保有期間は5年2か月です。しかし判定は2027年1月1日時点で行われます。この時点では4年7か月です。短期譲渡所得の扱いになる可能性があります。
数か月の違いで税負担が変わります。売却の検討を始めたら、まず取得日を確認してください。
なお、ここまでは個人で保有している場合の話です。法人で保有していれば、売却益は法人の所得として扱われ、計算の仕組みが変わります。保有名義をどうするかは、不動産投資の法人化はいつが最適?をご覧ください。
また、税率や特例は改正されることがあります。個別の事情によって取り扱いも異なります。実際の判断は必ず税理士にご確認ください。最新の制度は国税庁の公式サイトをご確認ください。
3. デッドクロス
3つ目は、保有中に静かに進行する問題です。
デッドクロスとは、減価償却費(建物の価値の目減りを経費として計上するもの)が、ローンの元金返済額を下回る状態を指します。
なぜ問題なのか。減価償却費は、実際にお金が出ていかない経費です。一方、元金返済は実際にお金が出ていきますが、経費にはなりません。
この2つが逆転すると、帳簿上は黒字なのに、手元にお金が残らないという状態が起こり得ます。しかも黒字である以上、税金はかかります。
木造アパートの場合、減価償却期間は22年です。融資期間がこれより長いと、途中でデッドクロスを迎えます。
保有を続けるか、売却するか。この判断をする際の、重要な材料になります。
なお築10年前後は、デッドクロスと大規模修繕が重なる時期でもあります。新築アパートの修繕費はいくらかかる?もあわせてご確認ください。
出口は「売却」だけではありません
出口戦略というと売却を思い浮かべますが、選択肢はほかにもあります。
- 保有を続ける……返済が終われば、家賃収入の大部分が手元に残ります
- 建て替える……土地に価値があり、需要が続いているなら有力な選択肢です
- 更地にして土地として売る……建物の解体費はかかりますが、買主の幅は広がります
- 用途を変えて土地活用する……立地によっては、別の活用方法が適する場合があります
- 相続で承継する……次の世代へ引き継ぐ選択です
いずれの選択肢も、土地に価値があることが前提になります。ここでも結論は同じです。
用途変更については、福岡の土地活用で老人ホーム建設を検討すべき土地でも解説しています。
出口から逆算した土地選びのチェックリスト
出口を意識するなら、土地を見る段階で次の点を確認してください。
- 20年後も賃貸需要が見込めるか……需要の供給源が複数あるか
- 土地としての流動性があるか……買い手が付きやすい規模・形状・接道か
- 再建築に制約がないか……建築基準法上の道路に適切に接しているか
- 土地値が下支えとして機能するか……周辺の取引事例に極端な偏りがないか
- ハザードマップ上のリスクを把握しているか……水害リスクは売却時に説明義務があります
- 単一施設への依存がないか……工場や学校の移転で需要が消えないか
3つ目の再建築の可否は、特に重要です。建て替えができない土地は、出口の選択肢が大幅に狭まります。
5つ目については、洪水と内水の両方のハザードマップを確認してください。水害リスクは、売却時の重要事項説明の対象になっています。詳しくは福岡の新築アパート投資とハザードマップをご覧ください。
福岡で出口を考えるということ
福岡県内でも、エリアによって出口の姿は変わります。
福岡市中心部は、土地の流動性が高いエリアです。買い手が見つかりやすく、土地値も下支えとして機能しやすいと考えられます。一方で、取得時の土地値が高いため、利回りは出にくくなります。
郊外や県南エリアは、取得時の土地値が抑えられます。その分、事業計画上の収支は組みやすくなります。ただし、出口では買主の母数が福岡市中心部より少なくなる傾向があります。
どちらが正解ということはありません。重要なのは、取得時点でその違いを理解しているかです。
利回りが高いという理由だけで郊外の土地を選び、20年後に売れずに困る。この事態は、土地を選ぶ段階で避けられます。
県南エリアで需要をどう読むかは、久留米市は新築アパート投資の候補になる?で具体的に解説しています。
やってはいけない2つの判断
1つ目は、表面利回りだけで土地を選ぶことです。
表面利回り(年間家賃収入÷物件価格で算出する指標)は、購入時点の数字にすぎません。20年後の出口を何も語りません。
同じ利回りの2つの土地があったとして、20年後の価値はまったく違う可能性があります。
2つ目は、出口を業者任せにすることです。
売却の実務は仲介会社に依頼します。しかし「いつ、誰に、いくらで売るか」の方針は、投資家自身が持つべきものです。
そのためには、取得時点で出口を想定しておく必要があります。売りたくなってから考えるのでは遅いのです。
融資と出口の関係については、銀行評価目線で動き出す新築アパート一棟投資の考え方もご覧ください。
まとめ
新築アパートの出口戦略について、要点を整理します。
- 出口は「いつ売るか」ではなく「誰に売れるか」で決まる
- 買主の融資期間は「法定耐用年数 − 経過年数」で見られることが多い
- 木造は22年。築年数が進むほど、買える人は減っていく
- 建物の価値はゼロに向かう。最後に残るのは土地
- 譲渡所得税は5年が分岐点。判定は売却年の1月1日時点
- デッドクロスは保有継続か売却かを判断する材料になる
- 出口の選択肢は売却だけではないが、いずれも土地の価値が前提
利回りは建物がつくり、出口は土地がつくります。
土地から新築アパートを建てる方法は、この2つを両方コントロールできる数少ない手段です。すでに建っている物件を買う場合、選べるのは価格だけです。
出口を意識した投資は、20年後の自分への準備でもあります。土地を選ぶ段階で、そこまで見通しておいてください。
なお、本記事の税制・融資に関する内容は執筆時点の一般的な情報です。制度は改正されることがあり、金融機関の融資基準も個別に異なります。実際の判断は、税理士・金融機関・専門家にご相談ください。最新情報は各公式サイトをご確認ください。
また、本記事は特定の利回りや売却価格を保証するものではありません。実際の投資判断は、個別の土地・建築計画・資金計画をもとに慎重にご検討ください。
監修者
髙木 政利(セイコー・エステート&ディベロップメント株式会社 代表)
福岡を中心に、土地から新築アパートの不動産投資を支援しています。30年一括借上げの老人ホーム投資など、土地活用の選択肢も含めてご提案しています。
土地の仕入れから設計・建築まで一貫して手がけているため、20年後の出口を見据えた土地選定のご相談にも対応しています。
毎月開催している不動産投資セミナーは、日本最大級の不動産投資サイトのセミナーランキングで連続上位を達成中です。記録は現在も更新を続けています。セミナー参加者は延べ300人を超えました。
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